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「早急に二部屋を用意して戴きたいのだが!」
城主は小さなベルを鳴らして声を張る。
そのベルは家政婦であるマーラおばさんを呼ぶ為のものだ。
何時もならベルを僅かに鳴らしただけで直ぐに壁をすり抜けて遣って来る彼女が、今日はなかなかに姿を現さない。
城主は首を傾げ、廊下へ出る。
姿は無い。
長い廊下を渡り、リビングまで遣ってきたが彼女の姿は見えない。
壁に掛かった肖像画に声を掛ける。
「セバスチャン、マーラ嬢を見なかったかい」
城主の声を聞くと肖像が身を乗り出して答えた。
「さてね、暫くお見かけしておりませんが・・・
それより何時も申しておりますがマーラは五十代で御座いますよ。
死後も合わせた年齢だと300歳にななるかと。
いい加減その呼び方はおやめに・・・・・」
「これセバスチャン、その言い草は何だ!
女性は幾つになっても女性なのだよ!」
当初の目的を忘れた城主はくどくどと説教を始めたので、
面倒になった肖像は絵に戻って寝たふりをした。
肖像の態度に腹を立てた城主は声を張り上げる。
「ああ、もう一体マーラ嬢は何処に居る!」
「マーラならお洒落してデートに出掛けたよ」
・ ・ ・ ・
「・・・何だって?」
城主の目の前には黒猫。
他人の恋路を噂するのが余程愉快なのか、楽しそうに笑っている。
「お相手は街の靴磨き屋。
やっぱりお化けだから客なんて居ないんだけどねぇー!
その靴磨きにかける情熱にマーラの乙女心がグラッ!とね!」
キャー、などと奇声をあげてベラベラ話す黒猫。
対照的に城主は呆気にとられた様子でぽかんとしている。
「・・・・お化けがデートだって・・・!」
その城主の一言に黒猫がムッとした様子で切り返す。
「これミスター、その言い草は何だ!
女性は幾つになっても女性なのだよ!」
二つの笑い声。
「まったくお前にはかなわないな。」
「乙女だからね!狂おしい程に!」
和やかな空気が流れる。
「・・・で、部屋の掃除をしたいのだが
ブラッディー、手伝ってくれないか?」
黒猫は一瞬の間を空けて、
「にゃぁ~ん、にゃーにゃー」
逃げた。
「待て!俺は掃除が苦手なんだ!
お願い、納豆あげるから!」
城は今日も賑やかだ。
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