「否、そのような表現は適切では無いな。」
「そう、それは余りに短絡的な発想であって」
「非常に、ナンセンスだ」
認める訳にはいかなかった。
認めてしまってはいけない気がした。
―――――道に迷った、などとは。
「大体、ハァ・・これは果たして・・ゼェ・・道なのか?」
男は山道に落ちていた木の枝を杖代わりに、重い足を引き摺りながら呟く。
腕を捲られたワイシャツ、完全に解けてしまっているネクタイ、暑そうなベスト。
山登りに全く不向きなその格好も問題といえば問題だが、
一番の問題は己の体力の無さだ。
不健康な生活を続けていた自分が恨めしい。
無論、元々は馬車を走らせていたのだ。
然し当然ながら狭い山道を走れる訳も無く、渋々馬車を降り こうして歩いている。
目的地を漠然としか知らぬ儘に遣って来たのがそもそもの間違いだった。
男は一つ大きな溜息を漏らすと、一枚の手紙を取り出すと文面へと目を落とした。