『―――暫くの間、里へ帰ることにする。土産を楽しみにしておれ』
これが届いたのが数日前。以来何の音沙汰も無い。
もしかすると何か事故にでも巻き込まれたのでは?
心配性だと笑われるかもしれない。
過保護だと呆れられるかもしれない。
ただ、じっとしていられなかった。それだけだ。
大きな岩場に腰を下ろすと、乱れた呼吸を正すためにゆっくりと瞼を閉じる。
辺りはしんと静まり返り、生物の気配も感じられない。
そこで、ふと不安が過る。
迎えに行くどころか、自分が遭難してしまうのでは無いか?
「・・・弱ったな。実に弱った」
ひょっとすると行き違いになっているかもしれない。
急いで城を飛び出したので共も連れていない。
本格的にまずいことになった、と男は項垂れる。
ふと、白い影が横切る。
慌てて視線を上げると、一羽の白い小鳥が視界へ入ってきた。
「お前は・・・もしかすると」
腰を上げて近づこうとすると、小鳥は小さく羽ばたき、此方の様子を伺う。
まるで付いて来いと、そう言っているように。
小鳥に誘われるまま歩みを進めること数分、急に開けた場所に辿りついた。
一面の花畑、豊かな緑、静かに歌う小動物。
息を呑む程美しい「自然」に、男は目を奪われた。
白い小鳥は男の姿を確認すると、今度は大きく羽ばたき空を舞う。
陽の光に目を眩ませながらもその姿を目で追うと、
美しい花が咲く大木が、其処にあった。
大木の前で佇む人影を目で捉えると、今度は確信を持って歩みを進めた。
「・・・何という格好をしておるのじゃ」
呆れたように、けれど優しく微笑むその影に安堵しながら。
「土産だが、新しい服を一着戴きたい」
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