「ああんもうムカつくムカつくうううう!!!奇跡だろ?奇跡の自己中っぷりだろうがあのヤルォオオ!」
黒猫の声が響き渡る。
何時もより早く帰ったかと思えばこれか、と城主は呆れた。
こんな場合の対処法は、取り敢えず目を合わせないこと。
目が合ったが最後、怒りの矛先を此方に向けて来るに違いないのだ。
城主はお帰り、と無難な返答を返すと、読みかけの書物に視線を落とした。
「ほんとにあの男ってば、自分のことしか考えてないの!
元はと言えば全面的に自分が悪いんじゃん!それをさもこっちが悪いみたいに!
人に対する思いやりなんて欠片も無いの!ほんと良いのは見た目だけで中身スッカスカなんだからもぉおおお!!」
長々続く愚痴が終わるのを待っていたが、簡単には終わる気配を見せない。
城主は小さな溜息と共に書物を閉じる。
そして黒猫を優しく諭す様に、ゆっくりと口を開いた。
「いいかい?ブラッディー。
そもそも、この世に生ける全ての生物は往々にして自己中心的な生物なのだよ。
それはごく自然で、当り前のことと言って良い」
愚痴に水を注された形となった黒猫は、不満そうに城主を睨みつけた。
だが本日の彼には何か思惑があるのか、口角を上げながら視線を合わせる。
黒猫もそんな彼の様子に、黙って次の言葉を待った。
「だが――――それを包み隠さず、子供の様に我を通そうとするのは好くない。
至極無様だ。男が下がるというものだよ」
てっきり諭されるものだと思っていた黒猫は、城主が紡いだ言葉に一瞬耳を疑った。
両耳をピンとさせながら目を見開いている彼女を見て、城主は大層愉快な様子で続ける。
「結果。その意志が有ろうと無かろうと、関わる者全てを不幸にする。
意図せぬ悲劇を招くことも有るだろう。
・・・・どうだろう、それは男として三流とも言える愚行だと思わないかい?」
「三 流 ! ! !」
言うが早いか、黒猫は目を輝かせて叫んだ。
それは即ち、城主の思惑通りに事が運べた証拠である。
城主は満足げに微笑むと、再度書物を開き読書を再開した。
一方黒猫は城主の言葉を頭で整理しているのか、何かを呟きながらその場に立ち尽くしていた。
が、数秒後に悪戯そうな笑みを浮かべる。
「あの三流男、今すぐ馬鹿にしてきてやる!」
「処で今回は何をしでかしたのだい、メフィストは」
「あたしのプリン食ったの!よっし待ってろよ三下がぁあああああ!」
声を張り上げ、物凄い勢いでドアから飛び出して行った黒猫の背中を見送りながら、
本当に単純な奴だと呆れたように城主は笑う。
尤も、先の自身の言葉は紛れも無い本心なのだが。
兎に角目的通り、五月蠅い黒猫を追い出すことが出来た。
黒い騎獣には少々悪い気もするが、自分は存分に読書を愉しむことにする。
(独り善がりな考えや行いは何時か身を滅ぼす、か。)
開け放された儘の扉を、城主はゆっくりと閉ざした。
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