黒猫は不機嫌だった。
乙女をこよなく愛する彼女としては、もう暫く可愛らしい城主の姿を見て居たかったようだ。
「つまんない!!カボ子にもっと色んなお洋服着せたかったのに!」
・・・というよりも、そんな城主をからかうことが出来なくなりしょげているだけだった。
「勘弁してくれ。
メイドに水着、更にはお前の生前の一張羅まで着せられて。
俺はもうお腹がいっぱいだぞ。」
悪夢だった、と城主が深い溜息をつくと、
対照的に黒猫はその光景を思い出し、腹を抱えて笑う。
「然しサイズがぴったりだったのには驚いたね。
・・・あ、胸の部分が大分ときつかったけれ・・・!」
城主は慌てて自分の口を塞いだ。
決して嫌味を言うつもりでは無く、
正直な感想として口にした言葉は余りにも恐ろしい言葉であったからだ。
「・・・やーん!ミスターのス★ケ★ベ!!」
ところが、黒猫は笑顔を崩すことなくおどけて見せた。
城主は予測していなかった事態に戸惑いつつも、胸を撫で下ろした。
ふと時計に目をやると、出発を決めた時間を大幅に過ぎている。
慌てて部屋のドアを開け黒猫を急かすが、彼女は微動だにしない。
「忘れてた!アタシ買い物に行かなきゃいけないんだった!
悪いんだけどミスター、一人で出掛けて!」
「どうした?納豆の買い置きでも切れたか?
まったく・・!何でもかんでも片っ端からぶっかけるからだぞ!」
城主が小言を言いつつも部屋を後にしようとすると、
先程まで部屋に居た筈の黒猫が、物凄い勢いで部屋から飛び出してきた。
怯んだ隙に黒猫は彼を追い抜かし、玄関の方へと走って行く。
城主が呆気に取られて黒猫の背中を眺めていると、
数メートル先で彼女は此方を向き、大声で叫んだ。
「【むっしゅるーむ】じゃ!ボケェ!!!」
それはドスのきいた、乙女とは到底思えない怒声だった。
あまりの衝撃に暫し硬直してしまった城主だが、
一目散に駆けて行く黒猫を見てはっと我に返る。
「ちょ!ちょっと待て!ごめん、悪かった!
お願い待ってくれブラッディーちゃん!!!」
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