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もうひと月をきっているらしい。

何かと言うと、引越しの日程のことだ。
どうも大陸中が騒がしくなるということで、城ごと遠くへ引越すことに決めたのが6月末頃。
娘にハ○ルの城みたいなのね!と言われたことはさておき
今日まで何の準備もしていなかったが、あっという間に夏の盛りになっていた。

城ごとの移動となるので荷造り等の心配は無いのだが、それでも色々すべきことはある。
何をおいても先ずは同居人への通告か。
とは言え、眠っている相手をいきなり放り出すというのは気が引けるので、代わりの住居を用意しておかねば。
時間のあるうちに、と文書を認めるとふと物思いにふける。



最後に会ったのは何時だっただろうか。
軽く二年以上は前の事であった気がする。

最後に会った時も、ろくに会話も出来ぬ侭に別れた記憶がある。
元々の性格から、会えずに寂しく思うことは無かったが、形だけとなった関係に疑問を持った。
娘や親しい友人に相談を持ちかけたこともあった。
次に会えたらしっかり話そうと誓ったが、今日まで会えていないのでそれも叶わない。

俺はそのうち、考えることをやめた。
それからは気楽だった。
複雑に考えずに日々過ごせば良かったのだ。
不真面目万歳。

このまま何事も無く日々が過ぎれば、俺は永遠に此処で何も考えず君を待っていただろうと思う。
だが、そうもいかなくなった。



7月吉日、俺たちの可愛い娘が婚約をした。
わざわざご挨拶に来て下さったのだよ。生涯最も緊張した瞬間だった。
相手とは初対面だったけれど、礼儀の正しい好青年なので何も心配は無いと思う。
勿論それはもう身が引き裂かれるような思いだったが、同時に息子も出来たという歓びの方が勝った。
君もきっと、彼を気に入るだろう。

彼らも8月末、旅に出るらしい。
支え合い前へ進むことを目の前で誓った二人を見て、俺は心を固めた。
―――この場所から、単身で旅立つことと決めた。
日程は未だに未定ではあるが、星屑の宴を一通り楽しんだ後に。


何を伝えれば良いか分からないのだけれど、これだけは。
今まで誠に有難う。
君と過ごした日々、本当に楽しかった。心から笑えた。
君の御陰で随分変われたと思う。勿論良い方向に。

だがこのままでは俺は此処で立ち止まってしまう。
ぬるま湯に浸かったように、何も思考せず、怠惰に、慢性的に。
それは一見心地良いようで、実に退屈だ。
自分勝手かもしれないが、退屈を嫌う俺はそれに気付いてしまった。

君はその昔、俺が居ないと生きている意味が無い と言ったけれど、それは違う。
君ほどの人物の存在価値が一つだけだなんて、考えられないことだ。

俺を気遣い立ち止まるくらいならば、一人で歩んで良いんだ。
君もそう考えるだろうと思う。


俺はもうすぐ、此処から旅立つけれど。
一度離れ再会を果たした俺達ならば、きっとまた何処かで会えるだろう。
その時はまたどうか、君だけが知る俺の名前を呼んでくれ。

心から有難う、大好きだったよ。

送り主の名前は魔法で読めなくされている


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